日本はなぜ積極財政を採用しないのか?7つの具体的な理由

日本が積極財政を行わない理由について分かりやすく説明したい。

積極財政とは政府が公共投資や社会保障の支出を増やすことによって経済を刺激する政策である。

しかし、日本ではこのような積極的な財政政策が行われていない。以下にその理由を挙げる。

財政赤字と債務の問題

日本の政府債務は世界的にも高い水準にある。2023年時点で日本の政府債務はGDPの約240%に達している。この数値は他の先進国と比較しても非常に高いものであり、特に欧米諸国と比べると突出している。

財政赤字の拡大は将来的な財政運営の柔軟性を奪うため、政府はこの問題に対処する必要がある。財政赤字が長期間続くと、国際的な信用格付け機関からの評価が低下する恐れがあり、これが国債の利回り上昇を引き起こす可能性がある。

利回りの上昇は政府の借入コストを増大させ、結果的に他の必要な公共支出を圧迫することになる。このため、新たな支出を増やすことには慎重にならざるを得ない状況が続いている。

高齢化社会と社会保障費の増大

日本は急速に高齢化が進んでいる。65歳以上の高齢者が全人口の約28%を占め、少子高齢化が進む中で労働力人口は減少している。

高齢者の増加に伴い、年金、医療、介護といった社会保障費が急激に増大している。これにより、政府の財政負担は一層重くなっている。

例えば、医療費は高齢化に伴って増加し、年金制度も持続可能性を維持するために改革が必要とされている。これらの費用を賄うための財源を確保することが急務であり、新たな公共投資や支出を増やす余裕が極めて限られている。

財政規律の維持

日本政府は財政規律を維持することを強く意識している。財政規律とは政府が無制限に支出を拡大するのではなく、持続可能な範囲で支出を管理することである。財政規律を守ることは将来の財政の持続可能性を確保するために不可欠である。

もし財政赤字が過度に拡大すると、政府の信用が低下し、国際市場での国債発行が難しくなる恐れがある。特に、日本のように高い債務水準にある国では財政規律の維持が一層重要となる。

信用格付けが低下すると、国債の利回りが上昇し、政府の借入コストが増大するため、結果的に他の重要な公共サービスやインフラ投資に充てる予算が削減されるリスクがある。

デフレ脱却の難しさ

日本は1990年代から長期間にわたってデフレに悩まされている。デフレとは物価が持続的に下落する現象であり、企業の収益が圧迫されるとともに、個人消費も冷え込む傾向がある。

このため、企業の投資意欲が減退し、経済成長が鈍化する。デフレ脱却には政府の財政出動が有効とされるが、過去の経験から、単純に公共投資を増やすだけでは十分な効果が得られないことが示されている。

例えば、1990年代後半から2000年代初頭にかけて行われた大型公共事業は一時的な経済刺激効果をもたらしたものの、持続的なデフレ脱却には至らなかった。このため、政府は慎重な姿勢を取り、財政出動以外の手段も併用する必要があると認識している。

政治的な要因

積極財政を行うためには政治的なコンセンサスが必要である。与野党間での意見の対立や、国民の理解と支持が得られない場合、積極財政の実施は困難となる。

例えば、与党と野党の間で財政政策に対する見解が大きく異なる場合、予算案の成立が難航し、新たな支出計画が実現しにくくなる。

また、高齢化社会においては社会保障費の増加が優先される傾向が強く、新たな公共投資への支持が得られにくい。

特に、公共投資の効果が地域や分野によって異なるため、どの分野にどの程度の予算を割り当てるかについても政治的な議論が必要となる。

日銀の金融政策との連携

日本銀行(以下、日銀)は金融緩和政策を通じて経済を刺激しようとしている。日銀は量的緩和やマイナス金利政策などを実施し、資金供給を増やしている。

これに対して、政府が積極的な財政政策を行うと、財政と金融のバランスが崩れるリスクがある。例えば、日銀が国債を大量に購入している中で政府がさらに国債を発行すると、国債市場の安定性が損なわれる可能性がある。

このため、政府と日銀の間での連携が重要となっている。政府と日銀が協調して政策を進めることでより効果的な経済刺激が可能となるが、政策のバランスを取ることが求められる。

経済成長戦略の多様化

日本政府は経済成長のための戦略として、積極財政だけでなく、規制改革や構造改革を重視している。例えば、働き方改革では労働市場の柔軟性を高め、女性や高齢者の就業を促進することで労働力人口を増やすことが目指されている。

また、デジタル化の推進により、生産性の向上や新たなビジネスモデルの創出が期待されている。地方創生政策では地方経済の活性化を図り、都市と地方の経済格差を縮小することが狙いである。

このように、多様な政策を通じて経済の活性化を図ることで持続可能な成長を実現しようとしている。単純な財政出動に頼らない方針が取られている理由は総合的なアプローチが必要とされているためである。

多角的な政策を組み合わせることが求めらる

ここまで説明した通り、日本が積極財政を行わない背景には財政赤字と債務の問題、高齢化社会と社会保障費の増大、財政規律の維持、デフレ脱却の難しさ、政治的な要因、日銀の金融政策との連携、そして経済成長戦略の多様化といった多岐にわたる要因が存在している。

政府はこれらの課題に対応しながら、持続可能な経済成長を目指している。そのため、単純に公共支出を増やすだけではなく、多角的な政策を組み合わせることが求められている。

日本経済が直面するこれらの複雑な課題に対し、慎重かつ戦略的な対応が必要である。