2045年問題、またはシンギュラリティという言葉を聞いたことがあるだろうか。これは人工知能(AI)が人間の知能を超える時点、すなわち技術的特異点が到来するという予測である。しかし、この予測は本当に信じるに値するのだろうか。
結論から言えば、2045年問題は多くの誤解と誇張に基づいており、現実には程遠いものである。また2045年よりも先の未来であったとしても、現在のAIと呼ばれるものの発展の先にシンギュラリティは来ないといえる。その理由について解説しよう。
2045年問題とは何か?嘘である理由
シンギュラリティという概念は未来学者であるレイ・カーツワイルが提唱したものである。カーツワイルは技術の進歩が指数関数的に進行するという「技術的特異点(シンギュラリティ)」の到来を予測している。
彼の主張によれば、2045年頃には人工知能(AI)が人間の知能を超え、我々の生活や社会構造が根本的に変わるというのである。この予測は彼の著書『The Singularity Is Near(邦題:ポスト・ヒューマン誕生 コンピューターが人類の知性を超えるとき)』で詳細に論じられており、多くの人々の注目を集めた。
2045年問題の根拠はムーアの法則
カーツワイルは予測の根拠として、主にムーアの法則を引用している。ムーアの法則とは半導体のトランジスタ密度が約18ヶ月ごとに倍増するという観察に基づくものである。この法則に従えば、コンピュータの性能は急速に向上し続けることになる。カーツワイルはこれがAIの進化にも適用されると主張し、技術の進歩が加速度的に進む結果、2045年にシンギュラリティが到来すると予測した。これがいわゆる2045年問題である。
しかし、カーツワイルの主張はあくまで仮説に過ぎず、多くの専門家から誤りを指摘されている。なぜ誤りかという一つの理由はムーアの法則自体がAIの進化と直接的な関連を持たないからである。ムーアの法則はハードウェアの進化に関するものであり、ソフトウェアやAIのアルゴリズムの進化とは異なる。さらに、AIの進化には多くの複雑な要素が絡んでおり、単純にハードウェアの性能向上だけでは説明できない部分が多い。
ムーアの法則の限界
半導体の性能がどれだけ高まろうと、それがAIの進化を指数関数的に進めるわけではないので2024年問題は前提からして間違っていることは理解してもらえたと思う。なので説明する意味はないのかもしれないが、ムーアの法則の限界についても念のため説明しておく。
現在、トランジスタの縮小は物理的な制約に直面しており、シリコン素材の特性や量子効果などの問題が顕在化している。これにより、トランジスタの縮小速度は鈍化しており、かつてのような指数関数的な性能向上は難しくなっている。実際、インテルや他の半導体メーカーもムーアの法則の持続可能性について警鐘を鳴らしている。
つまり、仮に半導体の性能がAIの進化に直接的に影響するのだったとしても、2024年にシンギュラリティが到来するという計算は誤りということになる。したがって、カーツワイルの予測の前提が正しいとしても年代の計算には再検討が必要ということになる。そもそも前提が間違っているので意味はないが。
そもそも現在のAIの進化の先にシンギュラリティは存在しない
現在のAI技術は確かに驚異的な進歩を遂げている。ディープラーニングやニューラルネットワークの発展により、画像認識や自然言語処理、ゲームのプレイなど、多くの分野でAIは人間を凌駕する成果を上げている。
しかし、これらは特定のタスクにおける性能に過ぎない。汎用的な知能や創造性、直感といった人間特有の能力にはまだ追いついていない。というよりも、現在AIと呼ばれるものがどれだけ進化しようと自ら思考を持つようなことはないのだ。なぜなら大規模なデータを統計的に処理しているに過ぎないからである。AIの生成する文章や音声に触れるとまるで生きているかのように感じるかもしれないが、これらは学習した膨大なパターンから出力しているに過ぎないのだ。
例えば、AIが大量のデータを用いて高度な予測やパターン認識を行うことは可能だが、これは人間のような直感的な理解とは異なる。人間は限られた情報から即座に判断を下す能力を持ち、創造的な解決策を見出すことができるが、現在AIとされるものはそれとは全く異なるアプローチを取っている。学習したデータからそれっぽいものを出しているだけなのだ。つまり、その技術発展の延長線上にシンギュラリティが起こるというのは理論的にあり得ない話なのである。
現在のAIの発展の先にシンギュラリティがあるというのは「Aと入力したらBと出力する」というプログラムを膨大に書き続ければ、やがてシステムが思考を持つと考えるのと同じことである。
シンギュラリティの誤解
2045年問題を含むシンギュラリティが注目される背景には人々の未来への期待と恐怖がある。AIが人間を超えるというシナリオはSF映画や小説でも繰り返し描かれており、その影響で現実とフィクションが混同されている。しかし、実際の技術開発は極めて複雑であり、単純な予測や恐怖心に基づく議論は誤解を生む原因となる。
シンギュラリティに対する期待や恐怖はしばしば科学的な根拠に基づかないものである。未来の技術進化を過度に楽観視することも、逆に過度に悲観することも、冷静な判断を妨げる原因となる。私たちは現実的な視点を持ち、技術の進化とその影響を冷静に評価することが求められる。
このように、2045年問題やシンギュラリティの到来に対する議論は多くの誤解や誇張に基づいている。私たちはこれらの議論を再評価し、現実的な視点から技術の進化とその影響を捉え直す必要がある。